「うちもそろそろAIを使ったほうがいいんだろうか」
最近、こう聞かれることが増えました。答えは「たぶん使えます」なのですが、その前に確かめておいてほしいことがあります。AIそのものの話ではなく、AIを当てはめる前の、自分の会社の作業の話です。
私は総務・経理・労務・ITを一人で回してきた管理部門の責任者でした。今はその経験をもとに、経理・総務のExcel作業をExcelとAIで軽くする支援をしています。相談を受けていて感じるのは、うまくいくかどうかは「どのAIを選ぶか」より前、「自分の作業をどれだけ言葉にできているか」でほぼ決まるということです。
以下の7つは、私が診断のときに順番に見ている観点を、そのまま「自分で確かめられる問い」に直したものです。全部に答えられなくて大丈夫です。答えられない項目が、そのまま「最初に手をつける場所」になります。
1. その作業の「目的・頻度・時間」を一言で言えるか
たとえば「請求と入金の突き合わせ。毎月。1回に約6時間。一番つらいのは見落としが怖くて二度見していること」。
これが言えれば、もう半分は終わっています。逆に「なんとなくExcelが大変」のままだと、AIを入れても何が楽になったのか分からず、結局使われなくなります。
会社の中で「毎月これに時間を取られている」と思う作業を、ひとつだけ選んで、目的・頻度・所要時間・一番の困りごとを1〜2行で書いてみてください。ひとつで十分です。最初から全部を相手にしないのがコツです。
2. 作業を5つの工程に分けてみる
ひとつの作業は、たいてい次の5つの工程でできています。
入力(数字や文字を打ち込む)→ 転記(別のシートや帳票に写す)→ 集計(合計・集計表にする)→ 照合(別の資料と突き合わせる)→ 確認(人の目で最終チェックする)
先ほどの作業を、この5つに割ってみてください。すると「6時間のうち、実は照合に4時間半かかっている」というように、時間が溶けている工程がはっきりします。AIや自動化が効くのは、作業全体ではなく、この「溶けている工程」に対してです。
3. 「全部AI」にしない。工程ごとに道具を選ぶ
ここが一番誤解の多いところです。AIは万能の道具ではなく、道具のひとつです。工程ごとに向き不向きがあります。
- 転記・集計:まずExcelの関数やPower Query(Excelに最初から入っている取り込み機能)で足りることが多い。AIは要らない場合すらあります
- 照合:XLOOKUPなどの関数で機械的に突き合わせ、不一致だけ色をつける。これも関数です
- 文章を書く・要約する・数式を考えてもらう:ここはChatGPTなどの生成AIが得意
- 判断が要る確認:人に残す
「AIで自動化」と一括りにせず、「この工程は関数、この工程はAI、この工程は人」と割り振れているかを確かめてください。私が作るときも、AIを使わずExcel関数だけで済ませる部分のほうが多いくらいです。
4. 月に何時間減るかを、ざっくり数字にする
「便利になりそう」ではなく「月6時間が、月1時間半になりそう」まで落とします。概算で構いません。外れても構いません。
数字にする理由は二つあります。ひとつは、費用と比べられること。月4時間半減るなら、その時間の価値と、作るのにかかる費用や手間を天秤にかけられます。もうひとつは、入れたあとに効いたかどうか判定できること。数字がないと、「なんとなく便利」のまま評価できず、次の改善に進めません。
5. AIが間違えたとき、誰が気づくかを決めておく
AIは間違えます。これは「気をつけましょう」という一般論ではなく、私が自分で試して見た事実です。
自分で作ったサンプルの請求書6枚を、手元のパソコンで動くAIに5回ずつ読ませてみました。合計金額はほぼ正しく読めました。一方で、日本語の会社名を読み違えたり、同じ請求書なのに1回目と2回目で結果が変わったりしました。さらに厄介だったのは、小計と合計の両方を同じ方向に読み違えて、計算上は辻褄が合ってしまう誤りがあったことです。「小計+税=合計」という検算は通ってしまいます。
ここから言えることは単純で、AIの出力をそのまま信じる設計にしないことです。機械的な検算(数字が合っているか)を一段、そのうえで人が最後に見る工程を一段、残しておく。2番で分けた5工程のうち「確認」を人に残すのは、そのためです。
「AIが間違えたとき、誰が、どの画面で気づくのか」。これを一言で答えられるかどうかを確かめてください。
6. データをどこに出すかを、先に決めておく
AIを使うということは、多くの場合、何らかのデータをどこかのサービスに送るということです。取引先名、金額、従業員の情報。送っていいものと、送ってはいけないものを、先に線引きしておいてください。
線引きの例としては、「個人情報は送らない。項目名とダミーの数字だけで数式を作ってもらう」「取引先名は伏せて聞く」といった運用のルールがあります。私が診断でお客様の作業を伺うときも、実際のデータは受け取らず、項目名と架空の例だけで進めています。
また、インターネットに送らず手元のパソコンの中だけで動くAIもあります。ただし、それを使えば安全になるという単純な話ではなく、5番のとおり精度の確認が別に要ります。「どこに出すか」と「どれだけ信じるか」は別の問いとして持っておいてください。
7. 「必ず」「完全自動」「誰でも」と言う人を疑う
最後は、相手(私を含めた支援する側)を確かめる問いです。
「必ず自動化できます」「完全に人手がなくなります」「誰でもすぐ使えます」。こういう言葉が出てきたら、一度立ち止まってください。1〜6を一緒に見た人なら、「この工程は関数で、ここは人に残す」「月◯時間くらい、概算で」という条件つきの言い方になるはずです。断定が多いほど、作業を見ていない可能性が高い。私自身も、数字には必ず「概算」とつけるようにしています。
まとめ:3つ答えられれば、入れる準備はできている
7つ並べましたが、全部に答えられる必要はありません。1・2・5の3つ、つまり「どの作業か」「どの工程が重いか」「間違えたとき誰が気づくか」が言えれば、AIを入れる準備は十分にできています。
答えられなかった項目が、そのまま最初に手をつける場所です。そこを一緒に埋めるのが、私の診断の仕事です。
この記事を読んだあとに
まず自分の作業を棚卸ししたい方へ。 1〜7を、あなたの作業について文章で送っていただければ、工程の分解と優先順位をつけた診断メモにしてお返しします。実際のデータは不要で、項目名と架空の例だけで診断できます。
もう少し具体的に相談したい方へ。 「この作業、AIでラクにできる?」という業務の言葉のままで結構です。
照合の工程を関数で“第二の目”にした実例は、こちらの記事で手順を最初から見せています。
経理のチェック・照合をAIで減らす方法【請求と入金の消し込みを実例で解説】
転記・集計の側を自動化した実例はこちらです。
Excelの転記・集計をAIで自動化する方法【毎月90分→5分の実例で解説】
そもそもChatGPTを業務でどう使い始めるか、というところからの方はこちらへ。
中小企業がChatGPTで最初にやるべき3つのこと【管理部門経験者が解説】

コメント